長崎県対馬病院(旧いづはら病院)様

登録日:2012年2月14日

一瞬、ことばを失った。こんなに美しい景色を見た事は、数えるほどしかない。木製の階段を上りきった、小高い展望台。目の前には、幾重ものリアス式海岸に囲まれた浅茅(あそう)湾が、静かに広がっていた。きっと何百年、何千年も前から同じ景色に違いない───そう思うと、タイムスリップしたような不思議な気持ちになる。元寇を始め、アジアの歴史に翻弄されてきた島。複雑に切り立った岸壁には、そんな過去が刻みつけられているに違いない。

浅茅(あそう)湾

「対馬はキレイな女性が多いですよ。それから飲み屋さんも多くて、人口比の軒数が日本一だったこともあるそうです」

前回の壱岐での取材で小耳に挟んだ、そんな話を思い出し、さっそく尋ねてみる。対馬いづはら病院の桐谷技師が、笑顔で答えてくださった。

「よく知ってるね~。そうなんだよ、豆酘(つつ)の方にはキレイな女性が多いよ~。飲み屋もこの坂を降りたらたくさんあるよ」

豆酘(つつ)は昔から「美女の里」として知られており、美女塚という観光名所がある。昔、この村に住んでいた大変美しく賢い女性の評判が都まで届き、宮中の女官に召し出すように申し付けられ、都へ向かう途中に自ら命を絶った、という悲しい伝説があるそうだ。

対馬いづはら病院は、この島の医療を支える三つの病院(対馬いづはら病院、中対馬病院、上対馬病院)のひとつで、長崎病院企業団によって運営されている。2年後の2014年には、中対馬病院との合併が決まっている。黒字の病院同士での合併は、全国で初めてということだ。

対馬いづはら病院 外観

「診療の効率化と医療の質の向上を目指し、将来的には診療情報・画像情報・看護情報を統一した、対馬版クラウドシステムの構築を目指したい」

対馬いづはら病院の臨床検査科の山口臨床検査技師長(兼:リクルート部長)は、意欲的に語ってくださった。地域医療を支える病院様のシステムを地元企業としてお手伝いすること標榜している弊社としても、「知恵と汗は、惜しみなく出します」と宣言させていただいた。実現すれば、弊社にとっても貴重な経験になるのではないだろうか。

臨床検査科の山口技師長

さて、同病院のシステムは、現横河医療ソリューションズ株式会社が2003年に構築し、その後も画像ビューワの増設、交換を経て2010年秋、大幅なリプレースを行い、過去のデータを全て移行した。現在は、ShadeQuest/Serv、ShadeQuest/Web、ShadeQuset/Report、RadiQuest/Workとなっている。弊社はこれらのエンジニアリング業務に携わり、過去データの移行、新パッケージへの導入支援を実施した。

桐谷技師長

お話をうかがった桐谷技師長は、お得意のプログラミング技術でFileMakerを駆使し、検査歴参照システムをご自身で開発された方である。これにより、IDや患者氏名からの検索で、放射線画像、内視鏡画像、エコー画像、病理、OPE、ホルター、細胞診などの検査情報の閲覧が可能となっている。桐谷さんのご要望もあり、ShadeQuset/ReportのWeb配信機能を用いて、検査履歴参照システムとの連携を図っている。このシステムは、医師、技師、看護師、スタッフにも開示され、今ではなくてはならない機能となっており、「さすが、技師長、、、」と、弊社内でも有名な話として語り継がれている。また、打ち合わせや現地調整で弊社SEが訪問した際にも、技術談義で花を咲かせたとのことだ。

続いて訪ねた中対馬病院では、阿比留技師を訪問し、話しをうかがった。

中対馬病院のシステムは、横河医療ソリューションズから技術供与を受け、開発した「Integrate PACS」の第一号機が導入され、MR、CTの画像がファイリングされている。2年後のいづはら病院との合併に向け、双方の病院の患者様の画像情報をスムーズに統合するためにファイリングしておくことが目的となっている。

対馬いづはら病院の山口さんが真剣なまなざしで語ってくださった。

「平成26年10月、新病院開院に向けて職員一同頑張っています。壱岐同様、この島でも医師、看護師、コメディカル(医療技術スタッフ)をはじめ、医療資源不足は避けられない問題です。」さらにこう付け加えてくださった。「看護師不足を補う為、派遣会社から来てもらっています。病院が合併すると近隣の診療所にも影響がでると予想されるため、診療応援が出来るように、医師の確保にはいっそう力を注ぎたいですね」

島の北側にある展望所からは、韓国・釜山の夜景を肉眼で見ることが出来る。海外の夜景を肉眼で見られる場所は、日本でもここしかない。福岡まで130キロ、韓国までわずか50キロ───ここは間違いなく、国境の島なのだと思い知らされる。

「危機感はないけど、もしも『何か』が飛んできたら、自衛隊も米軍も間に合わないだろうな、って思う事はあるよ」

日露戦争開戦時、艦艇を朝鮮海峡へも対馬海峡へも出撃させられるように、人力で開削した水路がある。その上に架かる、万関橋という真っ赤な橋から下をのぞくと、足がすくんだ。ドラマ化で話題になった『坂の上の雲』の世界が、ここにも残されている。山に覆われた厳しい地形のためか、対馬は「男島」と呼ばれる。平坦な道は少なく、ほとんどがまさに「坂」の町なのだ。急峻な地形とは対照的な、地元女性たちの笑顔の優しさに救われる思いがした。

万関橋

「わたしも島以外で働きたいですよ0、いつでも」

桐谷さんは笑顔で語ってくださったが、ずっと出身地の対馬で勤務されている。島の現状には辛口なコメントが多かったが、それでも島を離れないのは、やはり愛着があるのかもしれない。夏にはトレッキングやシーカヤックが楽しめるし、島内は歴史巡りのスポットに事欠かない。韓国・釜山へは、福岡に行くよりも近い。自然豊かなこの島の休日に、山歩きで天然記念物のツシマヤマネコにバッタリ遭遇───なんていう楽しみは、ここでしか味わえない。そんな対馬の風と魅力を感じながら勤務し、休日には都会で味わうことのない体験ができる───なんて贅沢な話だ。この素敵な島に魅了されて多くの若者が島の医療に携わってくれればと、この島を訪れてそう思った。

9割が山林に覆われる対馬の、わずか2%の耕地で昔から作られているのが、対州(たいしゅう)そばとサツマイモである。対州そばは縄文時代後期に大陸から伝わったとされ、その頃と変わらない原種に近いそばだという。独特の味わいがあり、愛好者の高い支持を得ている。ろくべえは、サツマイモの澱粉で作った対馬独自の麺料理で、プルプルとした食感が楽しめる。

対州そば(左)ろくべえ(右) 石焼

「対州そばもろくべえも、そんなに美味しいものじゃないよ」

事前にうかがっていた桐谷技師の辛口のコメントがスパイスとして効いたのか、予想以上に美味しくいただくことができた。

また新鮮な魚介類も豊富で、今回は石焼という料理を堪能した。熱した石の上で、豪快にカットされた魚介類を焼いて食べる。漁師料理が原型というが、生で食べても美味しそうな魚を焼いて食べる、贅沢な料理だ。次回はぜひ、生のままでもいただいてみたい。

格安航空券を利用すると、九州圏から釜山で韓国旅行を満喫し対馬へ───国境を軽々と飛び越える、九州ならではの新しい旅の形かもしれない。

<福岡営業所 高橋理恵 取材日:2012年2月14日>